So Be It

見た映画やドラマでFilmarksにない作品の感想と覚書。時にネタバレを含んでいますのでご注意ください。

ヴァンパイア・イン・ブルックリン (Vampire in Brooklyn)

これはエディ・マーフィを相当怒らせたのかもしれない。

 

 

 忘れないうちに先に映画の話をしておこう。

 

 その昔、不死の種族ヴァンパイアはエジプトから追い出され、そのほとんどがカルパティア山脈のトランシルヴァニアに逃れた。しかし、中にはアフリカを南に下り、大西洋を渡ってバミューダ海域に隠された島々に逃げ延びた者もいた。

 何世紀かは幸せに暮らせていたが、やがてハンターたちに再び見つかってしまう。

 同胞はほとんど殺され、ただ1人逃げ延びることができたヴァンパイアがいた。

 名をマクシミリアンと言う。

 マクシミリアンはこのままでは種族の滅びを意味すると考え、そこで種族の子孫である女性がいるらしいという伝え聞いた話を頼りにマクシミリアンはブルックリンを目指す。

 

 そのマクシミリアンを演じるのがエディ・マーフィ。

 あと教会の牧師とイタリアンギャング、グィドもエディ・マーフィが演じている。

 マクシミリアンを演じている時のエディ・マーフィは終始シリアスモード。

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 またちょっと不思議なアクセントで話している。

 ヨーロピアンっぽい雰囲気を出すためか、英語がネイティヴランゲージではないことを示すためか、違うアクセントで品良い感じに仕上げている。  

 プリーチャーは、アフロ・アメリカンのコメディによく出てきそうなプリーチャー。

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そしてイタリアン・ギャングのグィド。

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このグィド、確かに相当口が達者で単なるやられ役で出てきたキャラとは思えなかったんだけれどもまさかエディ・マーフィだったとは!言われてもエディ・マーフィということがなかなか信じられない!
  (ちなみに白人の黒塗りが人種差別というなら、黒人が白塗りをして白人のふりをするのも人種差別にあたるのではないかという話は、私としては、白人が黒塗りした場合、黒色を拭い取れば白人に戻れる=特権を有する者に戻れるという点で、そこは紋切り型にイコールにはできないのではないかと今のところ感じている)

 

 マクシミリアンがブルックリンについた時に従者にしたカディーム・ハーディソン演じるジュリアン。

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ジョン・ウィザースプーン演じるジュリアンの叔父で大家のグリーン。

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この二人とマクシミリアンのケミストリーがどうかしている面白さで、マクシミリアンは極めてシリアスなのだけれども2人のリアクションで怖かったり面白かったりと絶妙なバランスを保っていた気がする。

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 この映画はコメディでありホラーでありそして相当なロマンスというか悲恋ものでもある。

 リタという吸血鬼の子孫でもある女性であり刑事とマクシミリアンとリタの相棒の刑事ジャスティスの三角関係。

 ここがなかなかほろ苦い。

 コメディと思っていたけれども、途中から実は真面目に悲恋ものをやろうとしているのかと思いかけたぐらいで。

 

 でもなんというか、馬鹿馬鹿しく笑わせながらもベースラインはいい話で最終的にめちゃくちゃ泣かしにかかるパターンはとんだ力技だけれども、うまくハマれば、きちんと成立しうるというのはこれまで見てきた映画でも学んできていることなので、この映画もうまくパズルのピースがはまっていれば、笑って泣ける面白い映画になれていたのではないかと思う。

 

 ところが残念なことにそうはならなかった。

 本気ホラーとコメディがなんというかうまく調和していなくてそのせいで「何も考えず気軽に笑える」映画になり損ねていたところがあって。

 

 まぁ当のエディ・マーフィがこの映画については「失敗作」と他のインタビューではっきり位置付けていたことは知っていたので、これは確かにそうかもなぁとは思いもしたものの...。  全体的に映画のトーンが定まらない感じはエンディングまでつきまとっていて。

 私としてはあのオチは最高に嬉しかったけれど、なんというか整合性を求めたい気持ちの部分では「???????」かなりめんくらったというか、今までのシリアスをそれで片付けていいのか???みたいな部分もなくはなかったんだけれども。

 

  もやっとしつつこれで感想を終えようかどうしようか決めかねて検索したらこんなインタビューを引っ掛けました。 この映画のシナリオを担当したマイケル・ラッカーとクリル・パーカーのインタビュー。

www.hopesandfears.com

 

 これによると、当時映画のシナリオを描きたくてしょうがなかったマイケル・ラッカーはクリス・パーカーと組んであるシナリオを書いていた。内容は2人の孤児が無法者と組むペイバームーンの西部劇版みたいなアクションアドベンチャーもの。それをエディ・マーフィが読んで、無法者の役を演じてみたいと興味を持ったらしい。

 その頃、チャーリー・マーフィとヴァーノン・リンチが一年かけて「Vampire in Brooklyn」のシナリオを書き上げていたそうだ。

 

 エディ・マーフィで西部劇と撮るという話は最終的には通らなかったものの、代わりに2人は「Vampire in Brooklyn」のシナリオをパラマウントから渡され、これを映画にできるようきちんと書き直して欲しいと言われる。

「Vampire in Brooklyn」の改訂版を書き上げ、監督にもっていくと監督は気に入り、二人は「パラマウントの副社長にみせてきてくれ」と言われる。

 副社長のところにいったらOKをもらい、今度は「パラマウントの社長のところに」と言われ、社長のところに行ったらそこでもOKをもらえ、社長からエディ・マーフィのところにシナリオを持っていって欲しいと頼まれたそうだ。

 そして2人はNYにいって、エディ・マーフィにシナリオをみせにいく。

 パラマウントからシナリオを受け取り改訂版を書き上げ、全員からOKをもらい企画にGOサインが出るまでに1ヶ月もかからなかったとか。全員がシナリオを気に入ってくれてスムーズだったと二人は語る。

 

 ただエディ・マーフィにシナリオを見せにいった時のことだ。エディ・マーフィは話の途中で不意に立ち上がり、ピアノをひきにいったそうだ。

 その間は完全に2人のことを忘れ去っているようだったと、クリス・パーカーは話している。奇妙に感じたけれどもそれ以外はとてもエディ・マーフィと良好な関係を持てたと思うとも。

 

クリス・パーカーとマイケル・ラッカーが「Vampire In Brooklyn」について1番最初にパラマウント側と話をしたとき、パラマウント側から「我々としてはこの映画は面白可笑しいものであって欲しいんだ。だけどエディはそういうのをやりたがっていなくてね。それで君たちには彼に気がつかれないよう、彼が面白くなるよう書いて欲しいんだ」と言われたらしい。「どういうわけか彼らは僕らにそれができるだろうと思ってたみたいなんだ」と。そして2人はパラマウントに言われた通りにシナリオを書き直した。

  

 シネマ・フォトグラファーのマイク・アーウィンは撮影中、ウェス・クレイヴン監督がエディ・マーフィをシリアスのまま演じさせることにとても苦労していたと話している。監督がエディ・マーフィにシリアスでドラマティックな演技を求めるとエディは混乱しているようだったと。

 監督のウェス・クレイヴンはエディ・マーフィに「エルム街の悪夢」のフレディ・クルーガーのようなテイストを求めていたのに対し、パラマウント側はエディ・マーフィのアクセル・フォーリー的なものを求めていた(またか)。

 

 撮影中のこと。エディ・マーフィは牧師のシーンのセリフを言うことに全然乗り気ではなかったそうだ。そのシーンの撮影日、自分の宗教に反するとトレイラーから出てこなかったらしい。

 結局、監督とエディが話し合い、脚本を書き直すことで、そこはクリアとなったらしいが、クリス・パーカーは「大スターがごねてトレイラーから出てこないって本当にあるんだー」と思ったとか。

 他にも撮影現場に時間になってもなかなか現れなかったり、マリファナを吸いすぎたせいで瞳孔が大きくなってカラー・コンタクトが合わなくなってその日の撮影スケジュールが狂いまくったり、トレイラーの入口を壁側にピッタリつけるようにして停車して誰も中に入ってこれないようにして、当人一日中出てこず、中でレオン・スピンクスの昔の試合のビデオを見ていたとか。

 極め付けがエディ・マーフィの撮影最終日、シャンパンとお花を用意して、みんなで集まろうとしたら裏口からとっくにエディ・マーフィは撮影所をあとにしていたとか。

 

 このインタビューを読んだ時に私が感じたのはエディ・マーフィらしくないなぁということ。

 しかし、スタッフの人たちが全て嘘をついているというのも考えにくいのでエディ・マーフィが撮影現場で実際にそういう振る舞いをしたのだとすればどういうことだろうと考えると、エディ・マーフィがついにパラマウントの振る舞いにキレたんじゃないかなぁと。

 この「Vanpire in Brooklyn」がエディ・マーフィのパラマウントの契約下で撮らなくてはならない最後の映画だったわけですが、シナリオライターの2人が最初にパラマウント側に言われた「君たちには彼に気がつかれないよう、彼が面白くなるよう書いて欲しいんだ」っていうその意図を悟ったエディ・マーフィについに堪忍袋の尾を切らせたのではなかろうかと。

  2人と話している途中に唐突にピアノを弾きにいったというのが腹が立った気持ちを落ち着かせるためだったのかなという感じがして。

 なんだかもう激昂寸前だったのではないかという気がする。こんなのやれるかと断りたい気分だったけれども、でもこれが終われば契約終了だしという自分への言い聞かせタイムというか。  

 それまでにパラマウントに対してたまりにたまっていた鬱憤がついに我慢しきれないレベルに達して、「だったらそっちのイメージ通りの”エディ・マーフィ”でいてやるぜい」ということでの”大スターあるあるふるまい”だったのかなぁとか。だってエディ・マーフィはシチュエーション模写の天才ですから、その気になればいくらでもやれちゃうだろうし。

 まぁ、たまたまそのタイミングで映画を一緒に作ることになった皆さんには気の毒だったのかもしれませんが。

 他にも女性スタントマンの方が撮影中のスタントで亡くなられるという痛ましい事故も起こっていて。あと予算も途中からガクーンと落とされ、ほとんどが撮影所内での撮影になってしまい予定で考えていたような大掛かりな撮影はできなくなってしまったとか。

 

 これがエディ・マーフィにとってパラマウントとの契約最後の作品となるということは「フェンス」結局オーガスト・ウィルソンとパラマウントの話がついぞ噛み合わなかったということでもあるわけで。   

 1987年に上映権をパラマウントがエディのために買い、1990年にオーガスト・ウィルソンが「黒人の監督」という点でどうしてもパラマウントと話が噛み合わないもどかしさについてエッセイを書いている。このもどかしさはエディ・マーフィのものでもあるんだろうなぁと。

 

 とはいえ、キャスティングとかをみても、この映画でもエディ・マーフィは相当の意志を貫いているし、監督もそれに応えていたように思うんですよね。

 メインキャストのほとんどがアフロ・アメリカンだし。  

 画面に映っているエディ・マーフィは3変化も含めてきちんとしたクオリティで提出してきていると思いますし。

 

 あとメイク担当の人がエディ・マーフィの鬘についてめちゃくちゃ申し訳ながっていて、のちに黒人のヘアメイクの人と結婚したので、アフロ・アメリカンの髪の毛と鬘の扱い方について今ならきちんと理解しているのにというような話をインタビューでしていて。

 

 とか書きながらシーンを見直していたら、「ん?そんなにズタボロな映画でもないような...」って気になってきた。

 というか、私が映画の見方をわかっていないせいなのか、初見では「あかん...」と思っても、記事書こうとシーンを見直したりすると、「ん?面白いな...あれ?面白くないこともなかった....???あれ???」みたいなことになるので。

 もう何が何だか。

 でもファーストインプレッションでいけば「なんかトーンがよくわからない不思議な映画」だったんで。

 

 監督のインタビューがあればもうちょっと事情がわかるかもと思って今も検索かけまくっているんですが、見つけられませんでした。残念。  

 

 これの前が「ビバリーヒルズ・コップ3」でまた例の監督と仕事するはめになっているので精神的に消耗しまくっていただろうし。完全に心病む前に契約が終了してよかったということで。

 うん。  

 シナリオライターのマイケル・ラッカーとクリス・パーカーも上記のインタビューで、パラマウント側に言いなりになってシナリオを書いたことが最大の敗因だったということをなんとなく自覚している感じで。

 考えてみれば彼らが書き上げたアクション冒険西部劇をエディ・マーフィは気に入ってくれたわけなんだから、その上でエディを”騙す”という意図でシナリオを書いたら、「ああこいつらも俺を利用したいだけか」とエディ・マーフィががっかりする気持ちもわからないでもなく。

  でもまぁ、そういう危機も乗り越え、無事にいい感じに今のエディ・マーフィになったんだから。

 あとはコロナで伸びてしまったスタンダップのライブがいつか実現できるといいなぁと。ずーっと戻りたがっていたのにタッパイお兄ちゃんに気を使っていたのかなとちょっと思わないでもないし。

 

 エディ・マーフィの「Vampire in Brooklyn」のインタビュー。  

 結婚して子供ができたこと、これからの自分が進む方向性など色々それまでの考え方と違ってきたところがあって、今もまだ変化の最中という話をしている。パラマウントとの契約も終了してスタンダップに戻りたいという思いもちょっとあったりする感じで。

 子供の時は「エクソシスト」と「ジョーズ」が怖くてたまらなかったとか。

 悪役や緊張感のある役をこれまでやったことがなかったので挑戦してみたかったけれども、踏み込んだことのない分野なのでやるのが怖かったからセーフティネット的に「お笑い」役(プリーチャーとグイド)も入れておいた。いいバランスが取れてユニークだと思ったんだけれど...と。

 

 面白い試みをした映画だったという評を発見。

gizmodo.com

 ちなみに映画で初めて黒人のドラキュラが登場したのは1973年の「「吸血鬼ブラキュラ(1973)」でウィリアム・マーシャルが演じていたそうだ。

予告

 

インタビュー

 

ブラック・ホラー映画13本という記事を見つけたのでブックマークがわりにペタリ。

media.dream13.com

 

 私の好み度: ⭐️⭐️⭐️/5

🍅: 12%

www.imdb.com