「ムーンライト」 不思議に優しい世界観。
妙に面倒見のいいドラッグの売人のファンが空き家でシャロンをみつけたのがはじまり。
シャロンのお母さんはドラッグ中毒でシャロンのことはネグレクト気味。
そこでファンとファンの妻であるテレサがなんとなくシャロンの育て親みたいなポジションに。
このファンというドラッグ・ディーラーはドラッグ・ディーラーだけどめちゃくちゃいい人で、シャロンが自分が学校のいじめっ子から侮蔑的な呼ばれ方をすることを話したときの解答の仕方など、とても公平でいい説明の仕方だなと感心してしまった。
Little: What's a faggot?
Juan: A faggot is... a word used to make gay people feel bad.
Little: Am I a faggot?
Juan: No. You're not a faggot. You can be gay, but you don't have to let nobody call you a faggot.
ファンはシャロンが思春期に入る頃には命を落とし、シャロンの人生からいなくなってしまうのだけれど、彼の奥さんのテレサはずっとシャロンのことを家族の一員のように気にかけてくれ続ける。
ファンはシャロンに泳ぎ方をはじめいろんなことを教えてくれるわけなのだけれど、シャロンが刑務所に入ったあと無事に生き延びることができたということは、ファンはストリートでの生き延び方もしっかり教えてあげていたのかなと。
「ドアに背を向けて座っちゃだめだ」って言ってた感じで。
華奢でタフとはほど遠い雰囲気だったシャロンがたくましくドラッグ・ディーラーとしてストリートを仕切るまでの強さを持っていたというのは本当に幸運だったというかない。
もしかしたら刑務所にはいったとき、ファンに所縁のあった年上の人たちがファンの代わりにシャロンを庇護し、生き延びる術を教えてあげたのかもしれない。
ファンの面倒見の良さを思えば、彼に恩を感じているBrothersは多そうだ。
「All Day and a Night 」でも外の力関係がそのまま堀の中に持ち込まれると言っていたし、たぶんそうなのだろう。
彼が刑務所にはいるきっかけとなったケビンの裏切りやいじめはお母さんのことでどんどん追い詰められていた彼にとって残酷だったけれども、ケビンという気持ちを共有できる相手をシャロンが見つけることができたことはとても幸運で、ケビンもまたあの街で生き延びるためにやったことなのだとシャロンも諒解しているのがとても興味深いと思った。
もちろん時間が解決したところもあるのかもしれないけれど、薬物と暴力と貧困が蔓延する環境で本来守ってくれる親すらも薬物に侵されてしまった状態の中、力をもたない子供から成長し生き延びることの大変さを身にしみて知っているからこそ、手段はどうあれ相手がここまで生き延びていてくれたことの喜びの方が勝るのだろう。
ましてや相手は唯一自分が全てをさらけ出すことのできた存在だ。
ケヴィンとの久しぶりの再会がシャロンがこれまで生き延びるために身につけてきた幾重もの鎧の下で本来の彼を失わずにいたことを明らかにしてくれて、思わずこちらも笑顔になってしまう。
お母さんとシャロンの関係も優しいところに着地できて、これもファンの教えを思い出してしまって。
うまく言えないのだけれど、いろんな生き方があっていいのだと思わせてくれる。
この映画では”I don't judge you."が隅々まで行き届いていたような気がする。
誰もが人生の荒波と戦っているのだ。
今日を無事に生き延び、分かり合える大好きな相手と時間を一瞬でも共有することができることの至福。
その淡いような儚いような贅沢感を繊細に綴った美しいファンタジーだったような気がする。
とか言いながら、エンディングが流れてきたときは「え?これで終わり???」と完全に肩透かしをくらった気分でもあったわけなんですが。
実は「Black and Blue」のアリシア・ウエスト役の女優さんが出演しているということで見たのだけれど、シャロンのお母さん役で。
いやー、もう全く別人で!俳優さんって本当にすごい。
- At some point, you gotta decide for yourself who you gonna be. Can't let nobody make that decision for you.
- Let me tell you something, man. There are black people everywhere. You remember that, okay? No place you can go in the world ain't got no black people, we was the first on this planet.
Juan: I saw your mama last night.
Little: I hate her.
Juan: I bet you do. Hated mine too. Miss her like hell now. All I'm gonna say about that.
Kevin: What you cry about?
Chiron: I should have cried too much sometimes I feel like I'm just gonna turn into drops.
Kevin: Just roll out into the water, right? Roll out into the water just like all these other muthafuckers around here trying to drown their sorrow.
- I wasn't never worth shit. Never did anything I actually wanted to do, was all I could do to do what other folks thought I should do. I wasn't never myself.
私の好み度: ⭐️⭐️⭐️/5
🍅: 98%