So Be It

見た映画やドラマでFilmarksにない作品の感想と覚書。時にネタバレを含んでいますのでご注意ください。

ペリカン文書 ( The Pelican Brief )

  今日は疲れているからあんまり難しいこと考えずにすむ映画というか精神的にズドーンとやられずにすむ映画がいいなぁなんて思いながらのチョイス。 

ペリカン文書 (字幕版)

ペリカン文書 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

ところが、これまたとんでもなかった...。

 

 1993年の映画。

 リリースされたのが1993年ということは撮影されたのは1992年あたりなんだろうか。 1992年といえばロサンゼルス暴動が起こった年...。

  なんでそんなことを気にしたのかというと、本当に珍しくデンゼル先生が熱を持たずにお芝居をされていたように思われたので...。

 

 これまでどんな役だろうともデンゼル先生の職人魂が顔をのぞかせない瞬間はなかったのに、今回デンゼル先生はあの恐るべきカリスマ性を見事に消し去っている。

 役作りのためにワシントンポストだったかどこかの編集部に4日間いさせてもらっていたというから、厳密に記者の人を再現したらそんな感じだったということなのかなー???とも思ったけれども、それにしても時にデンゼル先生が相手の芝居にまったく反応を返さない瞬間も見受けられたので、どうしたって「先生どうしちゃったんだろう。何かあったんだろうか???」と思わずにはいられない。 

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 ちなみにデンゼル先生の映画を見ている最中に、その作中の役についてではなくデンゼル先生のことを考えることはほとんどない。そのくらいデンゼル先生は演じたキャラをドラマチックに作り上げるので、のせられやすい私はもれなくデンゼル先生の手のひらの上で転がされ放題にそのキャラに深く感情移入しまくる。

 見終わったあと、そのキャラとデンゼル先生を切り離して考えるのにひと苦労するぐらいだ。

 いつものデンゼル先生でいくと、ジュリア・ロバーツさんの存在感を消しかねないカリスマ性というかオーラをよくも悪くもだだ漏れ状態で放つ感じだと思うんだけれど、今回はサーポートするキャラクターということで、彼女を際立たせることを心がけたということなんだろうか。

  しかし、映画を見ながら「あれ?デンゼル先生、ジュリア・ロバーツさんのことめっちゃ好き?」とか思ってしまった瞬間もあったので、余計にデンゼル先生の熱なし演技が気になったというか。

 

 そもそもこのお話ちょっとというか設定がかなり変で、ジュリア・ロバーツさんが演じているのがダービー・ショウという24歳の法学科の生徒なんだけれど、彼女は講座の教授キャラハンの恋人っていう...。   

 ちょっとまって教授、生徒に手を出すのっていかがなものなのさ。

 教授の年齢がよくわかんなかったけれど、最高判事の元で事務官やってるってことは結構なキャリアの持ち主なわけだからそれなりに年齢はいってるはずですよね?

 いやまぁ年の差カップルが悪いというわけではないけれど、教える立場と教えを受ける立場ではどうやったって並行関係にはなりえないので、恋愛関係になるなら彼女が卒業してからとか、ちゃんとけじめつけなあかんと思うのさ(生徒の立場の人間は基本的に先生に好かれたいという意識が無意識に働くものなので)。

 

 このダービー・ショウの立てた仮説が奇しくも大統領をも巻き込んだ判事殺害事件の真相をついていたということで命を狙われまくり、デンゼル・先生演じるワシントン・ヘラルドの記者グレイ・グランサムと共に真相を暴くっていう感じのストーリー。

 いつ殺されるかわかんない状況のなかで二人は逃げつつ、証拠を探しつつって感じの展開で、ダービー・ショウと関わった人たちはことごとく殺されちゃうので、グランサムさんも危ないんじゃないかというハラハラしたとと映画自体はそれなりにまぁ面白く見られないこともなかったけれども...。

 

 デンゼル先生の熱のなさが気になりすぎて、もやもや感がハンパねー。

 

 見終わってから軽く検索したら、原作ではダービー・ショウとグランサム記者は恋人同士になるっていう設定だったけれどもデンゼル先生がキスシーンとかは断ったという話をみつけた。

 その話自体も信憑性は定かではないがその理由が自分のファンは黒人女性が多いので白人とのキスシーンはショックだろうからという理由で断ったらしいとあって、ほんまかいなと。

 でもまぁ1992年だと人種間の緊張の高まりもすごかったからそういう配慮とか必要だったのかなと思わないでもないけれど、でもデンゼル先生らしくない。

 というか、デンゼル先生の俳優としてのスタンスに全然合わない。

 デンゼル先生は自分と役柄を完全に切り離して考えることのできる俳優さんなので、シナリオに必然性があり監督がのぞむなら、誰に何かを言われるとか評価とかをきにすることなく、ためらわずにベストをつくしてそれをやる俳優さんだ。

  普通の流れならまぁ、危険な橋を渡っている二人なので恋愛感情が生まれるという展開は映画的にはありそうだけれども、このダービー・ショウは教授と恋人関係にあった学生さんで、さらに助けてくれた記者とそういう関係になったら、おかしいにもほどがあろうよ。お父さんが早くに亡くなっているから、まぁお父さん的存在に惹かれる傾向があると解釈できなくもないけれど、でも同性の観客からは、このダービー・ショウは教授と恋人関係だったということで既に相当マイナスを食らっているので、さらに記者といちゃこらしたら、女性の観客からしたら”なんじゃそりゃ”となるんじゃなかろうか。

 「あんたの教授への気持ちはなんやってん???」と。 まぁ、人それぞれだからわかんないけれど、心狭くて申し訳ないが私はそうなる。

  それにダービー・ショウさんはめちゃくちゃ可愛いので、ここでいちゃこらしたらグランサムへの評価もがたオチだ。「他に頼るものもなく誰を信用してもいいのかもわからず、周囲で知り合いが死にまくってすっかり怯えてきっている状態につけこみやがって!」的な。

  なので、同じ部屋に泊まってもらっても安心なグランサム記者さんは彼女が心から信頼しても大丈夫という鉄板クラスの説得力が生まれるので、シナリオ的にいちゃこらとなる流れはなかったんじゃなかろうかね。

 デンゼル先生は論理的人間だと自分のことを言っていたので腑に落ちないことは腑に落ちるまで話し合うはずだしなぁ......なーんてことをぼんやりと考えつつ。

 

 ジュリア・ロバーツさんは本当に可愛いので、もしもシナリオにチゥするシーンがあったとして、それを拒んだのならデンゼル先生は本当に紳士だなとか思ったりさ。

 でも、いちゃこらしてから「(この状況を無事に生き延びて)25歳になった君をみていたい」っていうセリフ言ったら、男として記者として説得力なさすぎるもんね。

 恋人ポジションか父親ポジションか、そこははっきり線引いてもらわないと。

 うん。

 心でどう思うかはコントロールしようがないだろうけれど、それを態度に出さずにいられる自制心を持つか持たないかが信頼できるかできないかの大きなポイントというか、譲れない絶対的ポイントだと思うんだ。

  で、ここでふと思い出したのが「ワイルド・スピード」だ。

 ミシェル・ロドリゲス姐さんが、ヴィン兄演じるドミニクを好きで、さらにポー兄演じるブライアンにもせまるというシナリオだったのを泣いて拒んで、ヴィン兄とポー兄はそれを全面的に応援し、その流れはなくなった。

  ということから、ふと思ったのだけれど、教授と恋人関係のあと、記者と恋人関係になるという流れが一番気に入らなかったのはジュリア・ロバーツさんだったんじゃないだろうかと。

 でもまぁ、ジュリア・ロバーツさんがそれをいうと角がたつからということでデンゼル先生が「自分が嫌だって言ったってことにしていいよー」って言ったのかもしれない。

  まぁ、あくまでも憶測でしかないけれど...。

 

 でも、そののちに、自分とは関係のない映画のプレミアに姿を現わすことの一切なかったデンゼル先生が、はじめて他の映画のプレミアに姿を現し、驚いた記者団に「ジュリア・ロバーツに頼まれたから。彼女に頼まれたらなんでもやるよ!」なんて冗談も言ってるぐらいなので 、デンゼル先生的にはベッドシーンを自分が断ったことにするということなんて朝飯前だったろうしな。

(ちなみにデンゼル先生とデンゼル先生の奥さんとジュリアさんはジュリアさんのパートナーと一緒にリゾート地に旅行に行くぐらい家族ぐるみで仲良しなもよう)

 

 でもまぁ、恋人関係いちゃこらシーンにまつわる話はそういうことだったとしてもデンゼル先生の演技の熱の入れなささぶりは説明がつかない。

 というわけで、どこかでなんかこの映画について話してないかしらとインタビューを検索し続けたら、2017年に「プレイボーイ」という雑誌に掲載されたデンゼル先生のインタビューを見つけることができた。

 

 このインタビュー、他にもいろいろ興味深い話がたくさんでてきていたのだけれど、とりあえずこの映画の話にしぼりますとー。

 まず一番驚いたのが、どうやら原作者はグランサム記者役をデンゼル先生がやることが気に入らなかったということ!

 えー???

 そうなの???

 これって有名な話なの???

 なんかすごくビックリしてしまったんですが。。。

 

 この原作自体はジュリア・ロバーツさんをイメージして書かれたていたらしく、ジュリア・ロバーツさんありきでの映画化。

 デンゼル先生がこの映画にでることにきめたのは、ジュリア・ロバーツさんとこの映画の監督のアラン・J・パクラからのたってのお願いだったということで、デンゼル先生的には最初脚本を渡された時、なんの興味もわかず断るつもりだったそうだ。

 その後、監督とジュリア・ロバーツさんと直接会って話を聞いて、それで出演を承諾したとか。

 でも原作者さんとは一度も会うことも話したこともなかったらしい...。

 

 この映画が公開された頃のインタビューではデンゼル先生「今回はポピュラーな映画に溶け込むことを目標に取り組んだ」とお話しされている。

 それって、つまり先生のいつもはだだ漏れまくりのカリスマ性を出さないよう心がけたってことなのかしら???

 それで熱ない感じに見えた???

 

 この感想を書いた数日後、ものすごーく嫌な記事を見つけてしまった...。

 

 当時の「ニューズ・ウィーク」の記事によるとこの原作者であるジョン・グリジャムはデンゼル先生が演じたグランサムを原作では自分だと想定して書いていたらしい。  

 で、デンゼル先生がキャスティングされたと報じられた時、自分はあのキャラクターを黒人を想定して書いていないからキャラクターを変えて欲しいといってきたとか!

 で、スタジオ側はデンゼル先生に、原作者がそう言ってきたのでギャラは契約通り支払うからこの映画から降板して欲しいと言ってきたそうだ。

 原作者のジョン・グリジャムはこの映画についてインタビューで「監督のアラン・パクラが電話でデンゼル・ワシントンをキャスティングしたと言ってきたから”そうか”とこたえた」と語っているそうだ。

 

 なんか...かなり腑に落ちたような。

 つまり、原作者は映画の中でジュリア・ロバーツさんに自分が妄想したいちゃこらシーンを演じてもらいたかったが、黒人相手というのは嫌だったんだ。

 ついでにサム・シェパードが演じていた教授も自分だったんじゃないのかー???という疑惑がわきすぎて気持ちが悪くなってきた。

 となると、脚本を読んでなんの興味もわかなかったデンゼル先生が監督とジュリア・ロバーツと話をして引き受けたというのは、そのあたりの事情を打ち明けられたからなんじゃなかろうか。

 私でも名前知っているようなベスト・セラー作家さんだし、発言力も大きそうだし。(...とんだレイシストなのを逆手にとるという作戦??? もしそうだったら痛烈な皮肉というか意趣返しというか...)

 原作者やスタジオのそんなくだらない意向に沿わなかったってことが理由で、映画界のメインストリームで干されたところで知ったことか!というのがデンゼル先生の気持ちだったんじゃないかなー(というのもデンゼル先生の俳優としての故郷はいつも舞台。当人もドラマにでたのは結婚して子供もできたので舞台俳優では食っていけず家族を養うためにドラマに出たと言ってたし)

 

 かっこいいな!

 デンゼル先生、かっこよすぎるだろ!!!

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追記:

 とある評論家の分析によるとデンゼル先生はこの映画の中でハリウッド映画にでてくるこの手の白人のキャラクターの喋り方、立ち振る舞いを完全に再現していたそうだ。

 つまりこのデンゼル先生はこれまためちゃくちゃ職人技を発揮しまくっていたんだー!

 ごめんデンゼル先生、そこに気がついていなかった!!😱😱😱

 熱がないなんっていってごめんなさーい。

 まだまだ修行が足りないー😭

 反省。

 

 

私の好み度: ⭐️⭐️/5

🍅: 53%

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