デンゼル先生の優しさがとんでもなく沁みて泣く。
元が舞台劇ということでセリフ量がもう膨大。なんというか映画をみながら、そのまま舞台がどうであったかが思い浮かぶような。
映画をみているというよりは舞台録画をみているような感覚。
舞台をみていてセリフから思い起こして頭の中で展開する風景を補助的で映像で補ったような。
“セットは屋外に移しましたが、これはあくまでも舞台劇です“ということなんだなと頭をスイッチさせるまでは、ちょっと面食らった。
これをブロードウェイの舞台でみるならいいんだけど....キツイ視聴になるかもなぁと冒頭のシーンでやや気がおもたくなりつつ。
でもまぁ、デンゼル先生の舞台なんてみたことないし、これからもきっとみられる機会などないから、舞台のデンゼル先生はこんな感じなのかなというふうに思ったり。
セリフや人の出入りなどのタイミングやリズムも舞台っぽいので、これはもう舞台の空気感をそのまま意図的に持ち込もうとしたってことなのかなとか思ったり。
デンゼル先生が演じる主人公のトロイはけっこうかなりひどい親父で、息子がアメフトで大学のスカウトが決まりそういう大チャンスを手にしようとするときも応援しない。
見ながらこんなときにデンゼル先生が演じていたジョージ・マッケンニー先生がいてくれたらいいのに...なんて思ったり。
これはもうパワハラなんじゃないかとか、それはもう虐待だろうとか見ながら反感がわきあがってくるものの、なんというかトロイのいうことも間違っていないというか反論できないというか。
トロイの幼少期から、この街でトロイがローズと結婚してというところも語られるのだけれど、これまでみてきた映画で学んだことというか見てきて感じたこととリンクして、やるせない気持ちになってしまう。
ローズを愛しながらも別の女の人と週末にはあっていて、子供までつくっちゃってという場面では、さすがにローズに気持ちが味方しちゃったものの、さりとてトロイのいうこともわからないでもないという複雑さ。
自分がローズなら、自分といるよりも他の女の人といるほうが笑顔になれると言われてしまえば「だったら無理していただかなくてけっこうです」ともう腹しかたたないだろうなと思いつつも、養わなければいけないという責任や自分の現状から目をそむけてただ楽しみたいというトロイの気持ちもわからないでもない。でも、ローズがトロイが言うようなそういう我慢をまったくしていないとでも???というローズが怒っちゃう気持ちもやっぱり当然で。
なんというか、なんかここに出てくる人たちの気持ちって全員”なんだかわからないでもない”と共感できる部分があって。
正しいとか間違っているとかそういうことではなくてトロイはトロイの精一杯を尽くしたんだということを、そこだけは否定しないであげてほしいというような。
そして今は無理でもいつかはわかってあげてほしいというような、そんなかつての世代に対する優しさが画面の隅々にまでいきわたり、ほどばしっているような感じでなんだかもうそのデンゼル先生の優しさに涙腺やられるみたいな。
エグエグ泣きながらちょっとだけ検索かけてみた。
この「フェンス」は1985年に上演されたオーガスト・ウィルソンが書いた戯曲でこれまでも映画化の話は何度もあったそうだ。
映画用に脚本もオーガスト・ウィルソンが書いていたらしい。
でも白人の監督による映画化は断固として拒んだため、映画化が実現せずにいたとか。
最初デンゼル先生の元にこの「フェンス」の戯曲が送られてきたとき、“演じたいか?プロデュースしたいか?監督したいか?“と訊かれたらしい。
デンゼル先生はまず脚本を読みたいといって、読んでみて自分はこの芝居をみたことはあるけれども戯曲を読んだことはなかったなぁと気がつき、まず「舞台がやりたい」と返事をしたそうな。
このときデンゼル先生は55歳。年齢的な問題から急がないといけないという焦りはあったとか。
舞台をやり終わったのが2010年。
やったらお金がなくなっていたのでとりあえず他の映画にでてお金つくんなきゃとなって、準備にゆるゆると着手しはじめたのが2013年。
脚本が完成したのが2016年の初め。そこからは仕事が早くて2016年11月には映画を完成させ、12月に公開されている。
そもそも「フェンス」の話がデンゼル先生にまわってきた経緯もなかなか素敵。
2005年 (追記(12/17) : オーガスト・ウィルソンが「Gem of the Decent」を書いている時だったと思うとデンゼル先生が言っているので、2人が直接あったには2002年か2003年。おそらく2002年前半ではないかと思われる)のある日、デンゼル先生は先生のエージェントからこの戯曲作家のオーガスト・ウィルソンに会いにシアトルに行くように指示されたそうな。
その日、シアトルは雨がふっていて二人してポーチに座っていたとか。
そもそもデンゼル先生は自分がなんの目的でオーガスト・ウィルソンに会いに来てるのか聞かされていなかったので何を話したらいいのかもわかっていなかったそうだ。
オーガスト・ウィルソンの方もタバコをよく吸っていたけれども特にデンゼル先生に何かを尋ねてくるとかいうこともしなかったとか。そこでデンゼル先生はオーガスト・ウィルソンにどうやって戯曲を書くのかって尋ねたりして。それで終わり。
その数日後「フェンス」の戯曲が送られてきて (追記(12/17): 「フェンス」のシナリオがデンゼル先生に送られてきたのは2010年)、“演じたいか?プロデュースしたいか?監督したいか?“と尋ねられたってことは、オーガスト・ウィルソンは1日デンゼル先生とのんびり過ごすことでデンゼル先生の人柄を見極め、自分の作品を託すことに決めたということになる。
デンゼル先生はオーガスト・ウィルソンのほかの作品の映像化も10作品ほど委ねられているそうで、HBOでやることになりそうだとか。でもそれはデンゼル先生プロデュースするだけにとどまると思うと。
デンゼル先生がオーガスト・ウィルソンに直接あったのはその日1日だけ。
2005年の10月にオーガスト・ウィルソンは亡くなっているので、自分の作品をたくせる心から信頼できる人間を探していたにちがいない。 なんだか映画のエピソードのようなドラマチックな話しですよね。(追記(12/17) オーガスト・ウィルソンがデンゼル・ワシントンと直接会ったのは「Gem of the Decent」のキャスティング候補の1人だったという可能性もあるがデンゼル・ワシントン自身、その会合が誰によってセッティングされたもので何の目的だったのかは知らされていなかったとインタビューで語っている。キャスティング候補だった?というのもマネージャがそんなようなことを言っていたような気もしないでもないとデンゼル・ワシントン自身そのあたりのことはうろ覚えな感じか、実際よくわからないままだったという感じ。しかし、オーガスト・ウィルソンの死後デンゼル・ワシントンは10作品の映像化権を託されているので、エディ・マーフィに託した「フェンス」の映像化が難航していた様子から他に作品の映像化を託せる人間を探していたオーガスト・ウィルソンがデンゼル・ワシントンとのミーティングをセッティングしてもらった可能性も高い)
ところでこの映画、日本で未公開と知ってビックリ!
えー??? デンゼル先生主演映画なのに???
定年間近なサラリーマンのお父さんとかみたら絶対泣くよ!
あとお父さんと折り合いが合わずに音信不通になっちゃってる息子さんとか、直撃されてたまんないと思うな。
電話したくなると思うな。今度一杯どう?って感じで。
この映画でデンゼル先生の優しさを全身に浴びたら、いっぱい泣いて、それからちょっとすっきりして笑顔になれる人いっぱいいると思うんだけどなぁ。
追記:この映画でトロイはしょっちゅう野球に例えて話すのだけれど、「スリーストライク法」とちょっと関係があるのかしらと思ったり。1990年に制定された法律なので、この原作にはその意図はなかっただろうけれども。トロイは自分は「ツーストライクからはじめるしかなかった」と。「スリーストライク法」は3回有罪判決を受けると自動的に終身刑になるというクリントン氏が大統領の時に制定されたものだけれど、「13th」というドキュメンタリーの中で「あの法律はまちがっていた」と後になってクリントン氏が公式の場で語っているという話がでてきて、ふとおもっただけなのですが。
私の好み度: ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️/5
🍅: 92%