So Be It

見た映画やドラマでFilmarksにない作品の感想と覚書。時にネタバレを含んでいますのでご注意ください。

きみの帰る場所/アントワン・フィッシャー (Antwone Fisher)

 デンゼル・ワシントンの優しさにやられる一品。

A.Q./アントワン・Q・フィッシャー・ストーリー (字幕版)
 

 

もうなんだろう。

この、”こういう時にはデンゼル・ワシントンにいてもらいたい”感。

今回もすごい。

すごかった。

 

 「オールデイ・アンド・ア・ナイト: 終身刑となった僕 (All day and a night)」を見た後に見たせいか余計に沁みた!

 ほらこんなに負の連鎖を断ち切ろうともがき苦しみながら戦っている子がいるんだよ。そういう子たちの側にはもれなくデンゼル・ワシントンがいてくれることを心から願わずにはいられない。

 

 主人公のアントン・フィッシャーは母親が刑務所で出産した子供で両親をまったく知らずに育った。しかも養子にだされた先でさんざん虐待を受け、それでもどうにかこうにか生き延びて現在は海軍に所属している。しかし、自分の中の怒りを抑えることができず、キレやすく、そのため上官に殴りかかってしまい、アントンはカウンセリングをうけるよう指示される。

 そのカウンセリングの先生がデンゼル・ワシントンもとい精神科医のジェローム・ダヴェンボーと。なかなか心を開かないアントンにジェロームは辛抱強く向き合う。

 

 人間にひどい目にあわされてまったく人を受けつけなくなった保護犬をどうにか人に慣らしていき、新しい飼い主に巡り会えるよう再び人間を好きになってもらうようにするまでのドキュメンタリーを見ているような気分で見ていた。

  またこのジェロームもちょっと不器用なところがあってアントンがようやく打ち解けてきたと思ったら、規定の診察回数が終わったからとセッションを打ち切ってしまったり。そのせいでアントンがまたやさぐれる...みたいな。

 ただジェロームのいいところは、その後でちゃんと考えて挽回してくるところ。

 ジェロームとの信頼関係が築かれていく過程でアントンも少しずつ人を信頼できるようになってくる。

 その過程がめちゃくちゃ丁寧に描かれていて、「がんばれ、がんばれ」と視聴中はクッションをギュウッと抱きしめつつ画面に向かってこっちもずっと祈ってる感じ。

 

 しかもアントンの素晴らしいところは、こんなに大変な目にあいながらも警察に逮捕されるようなことは1度もしていないし、麻薬にもまったく手をだしていない。  

 これがアメリカで生きる黒人の若者にとってどれだけ容易なことでないかがわかるだけに、「すごい!えらい!えらいよ、アントン!あんたすごいよ!!!」と喝采送りまくりで。

 で、ラストの一幕で「ああでもこれって映画だから可能なことで実際はこんなにうまく負の連鎖から立ち直れることって稀有なんだろうなぁ。デンゼル・ワシントンが実際にいてくれるわけでもないしさぁ...」とかって思っていたら、エンディングでどっこい実話だったと判明。 マジですか???!!!

 いやん、ほんまや!

 脚本家、アントン・フィッシャーってなってる!!!

 

 つまりこのアントンさんはあれだけ過酷な目にあいながらも負の連鎖を断ち切って前に進むことができたっていう。

 もうこの映画は本当に大勢の同じような境遇の人たちに見てもらいたい。  

 そして勇気と希望を少しでももってもらいたいと熱くなりつつ、作品について検索したら...。

 なんかもうこの映画の話もすごいけど、この映画ができるまでの話すらも映画みたいな話でびっくり。

  なんでもこのアントン・フィッシャー役を演じたデレク・ルークはソニー・スタジオのギフトショップで働いていて、この映画のシナリオの権利をFOXが購入したという話をきいて、当時ソニー・スタジオで警備員を務めていたアントン・フィッシャーさん本人にシナリオのコピーが欲しいと頼み、そしてキャスティングディレクターにオーディションを受けさせて欲しいと頼み込んだそうだ。

 で、オーディション合格の知らせは、デンゼル・ワシントンがギフトショップを訪れ、デレク・ルークに直接伝えたとか!

 

 このシナリオをデンゼル・ワシントンがはじめて読んだのが、1996年。

 シナリオがFOXに売れるまでにアントン・フィッシャーさんは41回書き直したというから、その直しもデンゼル・ワシントンとプロデューサーのトッド・ブラックさんが親身にサポートしてきたのかなぁなんて推察したり。

 この映画をみて若いアフリカン・アメリカンの男の子たちに勇気や希望をもって欲しいと思ったことがこの映画を世に出したいと思った一番の理由だったってデンゼル・ワシントン。  

 あとちょっと驚いたのが、このシナリオを読んだ1996年の当時、デンゼル・ワシントンは演技をすることに飽きてきていたそう。

 だから監督をすることで皆とコラボレートしたり、自分がこれまで一緒に仕事をしてきた監督の苦労や凄さを学べたことはすごく刺激になったとか。

 撮影期間中、プレッシャーでろくに眠れなかったそうで、ようやく眠れても「あのシーン撮れてなかった!」っていう悪夢でガバッと飛び起きるはめになったり。

 自分が出演する作品を監督することで学んだことの一つが”自分の演技をみること”で、これがなかなか過酷だったとか。

 これまではラッシュを一回見るだけだったのに、シーンを撮影するごとに自分の演技を見るはめになり、俳優は自分のことだけに集中するけれども監督はいろんなことに気配りしなくてはいけないんだということも学んだとか。

 新人の俳優さんたちには合宿とかして自分が使っているコツやテクニックをあますところなく教えたそうな。

 監督しての準備だけでなく、自分がこの実在する人たちの物語をきちんと扱えるか、自分に演じることができるか、そういった確信が持てるまで待ったというのも含めての準備期間6年。当初は自分は出るつもりはなかったらしいのだけれど、自分が出ないと映画化にGOサインがでないということもわかっていたから。

 デンゼル・ワシントンの誠意がたっぷりとつまった映画ということで。

 うん。

 だってもう本当にもがくアントンへの眼差しがめちゃくちゃ優しいんだもん。

 

 やっぱり全人類がデンゼル・ワシントンだったらいい!

 

私の好み度: ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️/5

🍅: 79%

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