思いの外、グッときてしまった。
ローマンは1週間の収益が500ドルというような小さな弁護士事務所のパートナー弁護士で、表立った仕事はパートナーであるウィリアムが担当し、ローマンは裁判の準備とクライアントの公民権を守ることに集中していた。しかし、ウィリアムが心臓発作で入院してしまい、回復の見込みのないことから事務所はローマンはこれまで通りの活動を続けるのが難しくなる。
主に低所得層のクライアントの公民権が侵害されないことに焦点をおき、利益を度外視して弁護士活動をしてきたローマン。
有色人種や低所得層は、刑事事件に巻き込まれなくても公民権が侵害されやすいのに、ましてや刑事事件に被疑者として巻き込まれた人々はもっと公民権が侵害されやすい。その人たちのために最後の盾になってきたのがローマンという人だ。
人としてとても立派な人なのだが、人として立派な仕事をしようとすると弁護士は儲けることができないということが、ローマンを通してよくわかる。
ローマンはとてもつましい生活を送っているが、基本的収入源を断たれてしまったこと、その後、道に倒れている人を助けようとすれば警察に疑われ、引ったくりにもあう。自分を散々殴った相手はこれまで自分が身をすり減らして守ってきたような相手だ。
そんな踏んだり蹴ったりな目にあった時に、とある事件の被害者が犯人を高額な懸賞金をかけて探していることを知り、ローマンは弁護士としての守秘義務を破って通報することで高額な懸賞金を受け取ってしまう。
その後、ウィリアムの教え子で大手弁護士事務所のジョージがローマンを事務所にパートナーとして迎え入れる。
当初こそ行き違うものの、ジョージはローマンのかつてのパートナー、ウィリアムの魂をしっかり受け継いでいて、ウィリアムがしていたようにローマンと一緒に利益度外視で人のために法廷で戦うことを決心する。
しかし、ローマンは自分がすでにジョージやウィリアムが賛同してくれた自分とは違ってしまっていることを知っており、そこを許すことができず自分で自分を訴える。
とても苦い。
思いがけずリーガルもの好きが胸を熱くするポイントをしっかりと押さえていた作品で驚いた。
うまく言えないのだが、ローマンが自分に対して提出した訴状をどう判断するか、そのもやもや感がそのまま法律と現実のバランスの難しさを示しているようで、なんというか。
完璧ではないけれど、法制度は人の努力によってきっとよりよい方向に押していけるものだと、信じたいような。 信じて戦ってきた人がいて、それを受け継いで戦っている人がいる。
ローマンの犯した守秘義務違反も、そのまま黙っていればよかったのかどうかというのも悩ましい話だ。
ローマンがその話をきいた若者はローマンの言葉に勇気づけられ、立ち上がる決心をしたがために散ってしまった。
ローマンが唆したせいだと事務所はローマンを責めたが、その若者の母親は息子は正しい方向に導かれたのだからとローマンを責めることはしなかった。
しかし、守る手段もない中、その決断をさせることは倫理的にどうだったのかと考えたとき、そもそも、法機関の施設の中で命の安全が保証されていないことの方が異常ではないかと気がつかされ、なんというか...。
あと、弁護士というのはつくづく悩ましい職業だなぁ〜とも。
このデンゼル・ワシントンという俳優さんは灰色ゾーンに立たされた人間を演じるのが絶妙だなと。「トレイニング・デイ」ではただただ衝撃すぎて驚いただけだったが、灰色ゾーンのキャラを演じるのって匙加減が相当難しいだろうと思うのに。自分の中でデンゼル・ワシントンへの俳優としての信頼感が深まったことで、安心してキャラに感情移入していけたという気がする。
私の好み度: ⭐️⭐️⭐️⭐️/5
🍅: 53%