アメリカンフットボールのスター選手のマイク・ウェブスター選手の検視を担当したベネット・オマル博士はマイク・ウエブスターが繰り返し脳震盪を起こしたことによって生み出されたバッド・プロテインが神経を圧迫することで異常行動を誘発したり、早期アルツハイマーを引き起こす原因になっている可能性に気がつき、調べはじめる。
ベネット・オマル博士がどのようにCTE(慢性外傷性脳症)という現象を発見、確信するにいたったのか。そしてそのことによって、NFLという巨大ビジネスがどういうリアクションをしてきたのか、それまでの経緯をとてもわかりやすく描いている。 そのあたりのことをとりあえず知りたいと思えば、この映画を見るのが手取り早い。入門書として最適だと思う。
CTE(慢性外傷性脳症)について一番わかりやすいと思った説明は、キツツキや上空から海面に頭から急速降下して魚をとる海鳥には脳への衝撃を緩和する仕組みが身体に備わっているが、人間の脳は瓶の中の水にただ浮いているような状態にあるので、衝撃を緩和する仕組みがないという話。
ニューロンからニューロンに情報を伝達するためのタウというタンパク質が強い衝撃を受け続けることによってもつれたり、破壊されたりすることで、次第に神経セルが死滅していき、その結果異常行動を引き起こしたり、記憶障害をおこすことがある。
映画の中では「頭の中で声がするんだ!!」といってアメフトの選手が暴力的行動を起こしてしまったりする姿が描かれたりしていたが、それでいくと「頭の中で声がしたから」と言って、無差別殺人を起こしたり、通り魔殺人を起こしたりした人たちの中には過去に頭に強い衝撃を受けた経歴がある人もいたりする??なんてことまで視野に入ってきてしまう。
研究者にとってはそういう現象があり、それが偶然ではないことを示す症例があることを示しただけのことだとしても、研究者でない人間のフィルターを通すと怖い部分だけが増幅してしまう。「アメリカの母親の2割がアメリカンフットボールは危険だから息子にはさせたくないと思ったらアメフトは終りだ」というセリフが劇中に出てくるが、レースやエクストリームスポーツなど死のリスクを承知で競技に挑む人々もやっぱりいるわけで。
リスクを知っておけば自分やみんなでコントロールできる幅も増えてくると思うので知っておくことは悪いことではないと思うのだが。
映画で見る限りでは治療法はまだない感じだった。タウ・プロテインが破壊されると神経セルが死滅していくという仕組みまでわかってきているなら、その症状が出てきた時の治療法か対処療法が見つかればいいのにと思うけれど。
まだまだこれからの分野っぽい。
ベネット・オマル博士をウィル・スミスが演じていた。
ウィル・スミスって名前はめちゃくちゃ知っているけれど、「ん?私ってこの人の映画って一度も観たことがなかったんだっけ?」と自問自答してしまったぐらい、私が思っていた”ウィル・スミス”では全然なくてIMdb見たら本当に見たことがなかった。
あらビックリ。
私の好み度: ⭐️⭐️⭐️⭐️/5
🍅 54%