基本的にはバイオレンスにまみれまくっているのだけど、根底に優しさを感じられる作品。
...たぶん。
イタリア系麻薬売人組織のチンピラであるジョーイは組織のボスの息子トミーから警官を売った拳銃の始末を頼まれる。ジョーイは家の地下に隠すが、それをジョーイの息子ニッキーと隣に住んでいるニッキーの友達オレグがそれを目撃してしまう。
オレグは父親から暴力を振るわれており、こっそりと銃を持ち出し父親を撃ってしまう。しかし、オレグの父親はロシア系マフィアの構成員で、その銃がトミーのものとバレると抗争に発展することになる。ジョーイは銃を回収するために行方をくらましたオレグの元を追う。
なんというか、冒頭からそれはもうバイオレンスにつぐバイオレンスで、これはそうとう無駄にグログロしいものをみせつけられまくったあげく、後味の悪い終わり方をするのだろうなと覚悟しての視聴だったのだが、エンディングにたどり着くと驚くなかれなんと笑顔になってたという。
もしかしたらこの展開のせいで”甘い”と評価されてしまうのかもしれないが、しかし物語の中心にくるのが十代の少年なのだ。しかも義理の父親から虐待を受け、途中であやうく小児性愛の犠牲者にもなりかかる。
直接的なシーンはない。仄めかされるだけだ。しかし慎重に扱わないと見るものに間違いなく嫌悪感を抱かせる題材である。
ところがこれほど暴力描写に容赦のない映画でありながら、少年に対する眼差しはとても良心的なものに感じられた。
貧困、虐待、ネグレクト、麻薬、ポルノ、銃等、大人の欲得で汚れきったダークな世界のそれこそ底辺も底辺な世界で少年は、そのダークで淀み切った世界の中で圧倒的な暴力の前にかき消されそうになりながらもかろうじて保たれているその世界の住人の良心というかそれに近いようなものによって光の世界へと導かれていく。
クライムバイオレンスもの体裁をとりつつも実はひそかにアドベンチャーファンタジーとでも言いたくなる作品。
凝りに凝ったカメラワークでどこか劇画タッチでもあるせいで、あまり現実味を感じさせないというのもファンタジーと感じる手助けとなっているのかもしれない。
展開もなかなか現実離れしている。これをシリアスなクライムものととらえれば許容されない突飛を含んだ展開もする。しかし、少年が経験するアドベンチャーファンタジーという目線でとらえれば、むしろ「そうなってくれてありがとう」的展開で受け止められるという不思議。
自分でもこういう結論に達したのが驚きだが、そう考えるのが一番腑に落ちる。
オレグの命運を握るのがオレグを追うジョーイであり、このジョーイがどちらに転ぶかというところがこの作品の重要なサスペンスとなる。
ジョーイはかつてのオレグでもある。そのことはジョーイから語られるが、このジョーイの描き方にもう一工夫あれば”安易”もしくは”陳腐”と見ている者が感じてしまうリスクをもっと軽減できたのではないかと思わないでもない。
しかし、この映画の中でかつてオレグだったのはジョーイだけというわけでもないわけで。むしろ、森全体にかかっていた悪い魔法を解いてダークな世界に囚われていたかつてのオレグたちをようやく解き放ったということ...とまで言ってしまうと言いすぎか。
オレグは決して笑わないロシア人の少年として描かれていた。とすれば、この映画に出てきた”かつてのオレグ”である大人たちはアンデルセン童話に出てきたカイ少年のようなもので、胸にささったガラスのかけらがとけた...ような感じがしたりもして、見ながらいろんな童話を連想したので何かしらメタファーになっていたのかなとか(もはや自分でも何を言ってるかわからない)
終盤は駄目押しのようにいろんなことが起こるのでそれがやや何が描きたかったのかをぼやかしてしまったような印象も...なくはない。
前に見たこの監督の作品『スティーラーズ(Pawnshop Chronicles )』ではこの監督のテイストにドン引きした自分もいるので、その警戒感から余計に「なんだ大丈夫じゃん!」と思ってしまってこの作品を妙に好意的にみてしまったのかもしれないし、ジョーイ役がポール・ウォーカーということでやっぱり相当色眼鏡がかかっているからかもしれない。
しかし、ポール・ウォーカーという色眼鏡という点でいうなら、ジョーイ役がポール・ウォーカーでなければあの展開で「なーんだ」となることもなかったという気もしなくもない。
「なーんだ」というのは「またかよ」というところからきているので、他の作品をきっちり自分の中から遮断すれば別にそうは思わなかったとは思うのだけれど。
なんというか気になっている俳優さんが出ていると、自分でも自分の感覚が信用ならないというのが正直なところだ。
ポール・ウォーカーの軌跡を追うという目線でいくと、この監督と仕事をしたことでようやく俳優として演技することに手応えというか、楽しさを感じることをできたような気配をインタビューの発言の端々から感じられた。関連インタビューを読んでいてなかでも笑ってしまったのが、今回はじめて現場から家に戻っても役から抜けきれないということを経験したというのだが、それまで彼はずっとメソッド俳優のことを"変な連中"と思っていたそうだ。ところがこの映画の撮影ではじめて似たような体験をしてしまい、あるインタビューで「友達のジョヴァンニ・リビシもそうなんだけど、いったん役にはいったらそのまんま家に持って帰ってきちまうんだ。だからあいつが変な役をやっている時なんかもう怖すぎて絶対家に泊まったりできなくて。現場で演じた役から抜けきれず家まで持って帰るって変な奴って思ってたけど、この撮影でジョーイを演じている時はアドレナリン全開なんだけど、それが家に帰っても全然おさまらなくて。その時泊まりにきていた彼女も”怖いから一緒にいられない”ってすぐ帰っちゃて。あ、おれもジョバンンニ・リビシみたいなことになってるって」と話している。
ジョバンンニ・リビシとも友達なんかーい!と思ったのはともかく、確かに、撮影現場でのインタビューを見てもあきらかにいつもと様子が違う印象だった。ピリついた感じがあからさまに全身からにじみ出てたとでも言おうか。
ウェイン・クラマー監督側の話も少し書いておこう。当初、ポール・ウォーカーのエージェントからプッシュされた時、"Fast and Furious"のイメージしかなかったことからこの役がこなせるのかどうかとても懐疑的だったそうだ。そこで数年来の親交があり、この映画でも刑事役で出演しているチャズ・バルミンテリにポール・ウォーカーをキャスティングすることについてどう思うか電話をかけて尋ねてみることにする。というのも、チャズ・バルミンテリは2004年に「ノエル」という作品で監督デビューしており、その映画でポールと既に仕事をしていたからだ。チャズ・バルミンテリは「絶対にキャスティングしろ!ヤツはいいぞ!絶対にあの役をやれるし、君は彼と仕事をするのが好きになる!」と思いっきり推され、さらにチャズ・バルミンテリはポールに「あの役を絶対受けろ!」とこれまたウェイン・クラマー監督を大プッシュ。チャズ・バルミンテリを尊敬しまくっていたポールも出演を承諾したとか。
※追記 (2020年1月25日) : 自分にこの役を演じることができるだろうかという不安もチャズ・バルミンテリに相談していたポール・ウォーカー。「追い詰められた時に君がみせる力はすごいから大丈夫」とチャズ・パルミンテリが背中を押してくれたそうだ。
その後の二人の意気投合ぶりを見れば、いやもう、二人を引き合わせてくれてチャズ・バルミンテリありがとう!という感じである。
※追記 (2020年1月25日) : 『スティーラーズ(Pawnshop Chronicles )』を撮影中の二人。
この映画をみた時はポール・ウォーカーがこんなにも演じることに対して苦手意識と不安をもっていたということを知らなかった。今思えば、ものすごい挑戦だ。よく作り込んでがんばったなと。こうなってくるとウェイン・クラマーに監督を頼んだのもわかる。どういう経緯でこのプロジェクトに関わることになったのかよくわからないが、役ができるかどうかの不安はこの時も間違いなくあったはずだ。すでに信頼関係を強固に築きあげている監督のもとでならこの役に挑戦する勇気が出たのかもしれない。ウェイン・クラマー監督も自分の映画に出てもらう準備をしていたのだからポール・ウォーカーが役者として一皮むけるのを手伝いたいという思いがあったのかもしれない。
私の好み度: ⭐️⭐️⭐️⭐️/5
🍅: 41%