ヴィン・ディーゼルがポール・ウォーカーと過ごした最後の時間。
それは「ワイルド・スピード Sky Mission (Furious 7)」の撮影現場でのことになる。
その日はドミニクが車でヘリコプターに突っ込んだ後、瓦礫の下敷きになった車の中からホブスとブライアンがドムの体を外へ引っ張り出し、ブライアンが必死でドムを蘇生させようとするシーンの撮影だった。
映画ではそのままレティとドムの絆が描かれるシーンとなるが、そのシーンの撮影中、ヴィン・ディーゼルはつい自分の死について考えてしまい、そして「もしも自分が死んだらポール・ウォーカーはどうなる?」と思ったそうだ。
撮影が終わった後、ヴィン・ディーゼルはどうしてもそのことについてポールと直接話をせずにはいられなくて彼のトレイラーを訪れる。
「もしおれが死んだら、おれがお前にとってどんな兄貴だったか伝えてくれるか?」
そう尋ねたそうだ。
ポール・ウォーカーはヴィン・ディーゼルにハグをしたという。
それがヴィン・ディーゼルがポール・ウォーカーと過ごした最後の時間となる。
ハグの前にポール・ウォーカーが何か話したのかどうかそこまではヴィン・ディーゼルは語っていない。
ポール・ウォーカーが逝ってしまってからヴィン・ディーゼルは何度も何度もこの瞬間のことを考えずにはいられなかったということだ。
ちなみにタイリース・ギブソンとリュダクリスがポールと最後に過ごしたのは撮影現場の車の中だったという。撮影が伸びに伸びて待ち時間に3人で人生のことから環境問題に至るまでいろんなことをじっくり話し込んでいたそうだ。
おそらく同じ日のことではないかと思う。ヴィン・ディーゼルもポールのトレイラーに訪ねた時、撮影時間がのびにのびた後で随分と遅い時間のことだったと言っていた。
リュダクリスとポール・ウォーカーの親交も深い。誕生日が1日違いだったこともあってか2人は考え方や性格がよく似ていたらしく「二人とも乙女座だから完璧主義なところとか1人の時間が必要なところとか。お互いお互いのことがよくわかってた」とリュダクリスは語っている。中でもポールが言ったことの中で気に入っている言葉は「ハリウッドにいるからってハリウッドに染まらなくていい」だそうだ。
「クリスは本当に頭がよくて先のこともちゃんと考えているんだ」とポール・ウォーカーはリュダクリスのことをとても尊敬していたそうで、将来のことなど2人でいろんな深い話をしたとインタビューで語っている。
↑リュダクリスが引き取る子犬を愛でまくり中のポール・ウォーカー。
↑とっても名残惜しそうにご主人にお返しします。
↑子犬をなでなでしようと手を伸ばすサン・カン。
↑ほとんど学生時代モードなFastファミリー。
って、ワンコに和んでいる場合ではなかった。
話をヴィン・ディーゼルに戻そう。
Furious 7の撮影が中断している間にヴィン・ディーゼルは「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のグルート役のアテレコの仕事に取り組んだということだが、このグルートを演じることが思いがけず救いになったという。
”木”が象徴する生命や輪廻そういった概念がポールを失った痛みを和らげ、"Furious 7"の撮影に再び取り組む大きな力付けになったと語っている。
「ポールはきっと映画を完成させて欲しいと思っているはずだ」
キャスト、クルー一同で決心をかため、ヴィン・ディーゼルは再び撮影に戻る。
ポールを喪ってからというもの、それまでの人生で泣いた以上に涙を流したというヴィン・ディーゼル。しかし、ポールを喪った後の撮影は誰にとっても容易なことではなかった。現場のなにもかもがいちいちポールの思い出とリンクし、どうしても涙がこみ上げてきてしまう。
ヴィン・ディーゼルがセットに戻った初日の撮影はジェイソン・ステイサム演じるショウとレースをするシーンだったそうだが、やはり涙がとまらずテッシュ3箱使い果たすはめに。
それでも感情を整えることができず、一旦撮影を中断しなかったそうだ。
7歳からはじめたキャリアの中でもそんな経験はしたことがなく、一番辛く厳しい撮影となったとヴィン・ディーゼルは語っている。
ヴィン・ディーゼルの姉でフランチャイズのエグゼクティブ・プロデューサーのサマンサ・ヴィンセントは「ポールはヴィンの人生の中でもおそらく唯一ヴィンのことを完全に理解していた存在だった。なぜなら二人は最初からこのフランチャイズを共に経験してきたのだから。彼を喪った哀しみを完全に乗り越えることはこれから先もヴィンにはきっとできないと思う」と話している。
あと、ハンを演じたサン・カンがポール・ウォーカーについて語った記事も見つけたので少し。
あまり一緒に画面に映る機会の少ない二人だが、十分に仲がよかったようだ。
確かにサン・カンの車好き度合いがポール・ウォーカーといい勝負なところを思えばむしろ話あいまくりで仲良くなっていてもまったく不思議はない。
サン・カンがポール・ウォーカーとの思い出として語ったのは、ロンドンで「ワイルド・スピード: Euro Mission (Furious 6)」の撮影をしていた時の話だ。
「七面鳥を出してくれる店をみつけたからみんなで感謝祭ディナーしようよ」とポールが言い出し、サン・カンと他の数人で夜そのレストランにいって楽しんだそうだ。
「ポールは現場にきた時は必ずみんなにハグしにくるし、全員の名前もしっかり覚えてるんだ。難しいシーンの撮影がある日は必ず様子を見にきて励ましてくる、そういう奴なんだ」
サン・カンがFOXの新しいドラマの役に決まった時もまっさきにお祝いの電話をかけてきて、「チアリーディングのポンポン振って応援してるからな!」と大喜びしてくれたとか。
「ワイルド・スピード: Sky Mission (Furious 7)」については「たかが映画じゃないか。ポールを思うなら完成させるべきとかっていう話もきくけど、あいつらどうするつもりなんだよ。ポールをあの映画に埋める気か? そんなもん絶対繰り返す必要ないことだ。死ぬなんて最悪だ。どんな死に方だって関係ない。どんなに”死”をかっこよく見せようとしたって、死ぬなんてどうしたって最悪なんだ」と語気を強めている(ちなみにこれは2013年12月4日に受けたインタビューでの発言。気持ちの整理がまだ全然ついていないところに”ポールのためにも映画を完成させるべきか?”ときかれて映画の中でブライアンの死を描けと言われたように感じたのではないかと思う)。
さらに「この業界で仕事をすればするほど大勢の人と出会うことになって、個人的に親しくなるなんてことはどんどんありえなくなっていくんだけど、ポールはどういうわけかそういうものが可能なんだっていうことをみんなに信じさせてくれた。実際この映画のみんなとはずっとつながっていたからね。ポールは僕らの夢とか理想のようなものの象徴のような存在だったと思う。ぼくらの力で世界をもっとよくできるって思わせてくれたんだ」とサン・カンは語っている。
興味深いことにハワイでポール・ウォーカーと親しく交流していた友人たちも少し似たようなことを言っていた。「ポールが傍にいるとなんだか自分がすごくいい人間になった気にさせられるんだ」と。
ヴィン・ディーゼルも去年ポール・ウォーカーの誕生日にインスタにポールに対してメッセージをアップした時、こんな言葉で締め括っている。
ー but somehow you continue to make the world a better place.