主人公のダンは営業マン。身を粉にして働きようやく契約をもまとめて会社に戻ってきてみれば年俸カットと上司に告げられ、独立宣言をして会社を辞める。駐車場で偶然であった定年退職をしたティモシー就職活動中の若者マイクを誘って起業する。
1年後、ドーナッツショップをオフィス代わりに3人で切り盛りし、ようやく大口の契約成立までこぎつけが、そこにダンの元上司が契約に割り込んでくる。噛ませ犬にされてたまるかと、ダンたちは契約を何が何でも成立させるためにドイツに飛ぶ。
一見コメディの体裁をとっているが、事実、コミカルなシーンというか、ブラックだったり、シュールだったり、下品だったり、くだらなかったりするギャグで彩られている作品なのだが、びっくりするほど人生を熱く語ってくるドラマだ。
“こうなりたい”と自分が思い描く理想像、”こうあるべきだ”、“こういうのがカッコいい”となんとなく刷り込まれている理想像、さらには“こんな感じだよね”という根拠なくなんとなく共有しているイメージ、またそこに自分を寄せていかなくてはという無意識の強迫観念、そういったプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、潰されてしまわないように戦い、走り続ける。その姿はひどく滑稽だったり、見苦しかったり、とんでもなくバカバカしかったり、くだらなかったり惨めだったりするが、このカオスを生き抜くためになりふりなんか構っていられない。自己憐憫に浸っている暇もない。主人公のダンは家族と社員を守るために全力を尽くす。
下品で品性を疑いたくなると思えるようなシチュエーションのなかですら、ハッとさせられるような意味合いを持たせてくるから油断ならない。なんでこんなにとんでもなく下品でくだらないのにジーンとなってるんだ? 熱くなってるんだ?とついつい自問自答したくもなりながら、なかなか極上のカタルシスに満面の笑顔になっている自分がいた。
この映画の脚本を書いたスティーブン・コンラッド氏というのは、とんでもなくバラバラな要素をポーンと大鍋になにもかもいっぺんに放り込んで、グルングルンとかき回し、こんなのまともな料理になるはずがないというこちらの不安と懐疑心を見事に裏切ってくるという印象。
ゲテモノ料理かと思いきや、いい具合にアレンジされた味わい深い伝統料理作れる料理人とでもいうのか。”パトリオット“というアマゾンプライムのオリジナルドラマでファンになったが、この人のテーマへのアプローチの仕方はやっぱり面白い。
私の好み度: ⭐️⭐️⭐️⭐️/5
🍅: 10%