スタイリッシュ感満載な映像での結構物々しい導入でさてはこれは難解映画かと身構える。次に緑を基調に繰り広げられる酒やドラッグが飛び交う怪しげなパーティ、行き交う刺青だらけのマッチョなロシアンマフィア、セクスィな格好のいかにもなお姉さんたちにこれはもしや意味なくエロかったりグロかったりキモかったりするタイプの映画だろうかと気が重くなる。
やがてロシアンマフィアに政府高官が絡む汚職事件にただの民間人でしかない教授ことユアン・マクレガーさんがどういうわけだか巻き込まれていくーという流れから、これはもしや人間の嫌な面を見せつけられまくって、裏切られまくった挙句、ユアン・マクレガーさんがひどい死に様をさらすとかの後味の悪いやつかだったら嫌だなぁ、今日はそういうの見られるほど心が元気じゃないんだけどなぁ...。
そんな感じで、見ようかやめよう悩み続けながら視聴を続けていたら、結局いい人しか出てこないとんでもなく無害な映画だったっていう。
いや、悪い人も出てくるんだけど、最初から悪い人とわかっている人たちが悪いだけで、この人に裏切られたら嫌だなぁという人が裏切ることもなく、”正直”と””親切が報われてよかったよかったみたいな顛末。 うん。世知辛い世の中だから、映画の中でくらいこんな感じでもいいよね。おかげでメンタル的に疲れてたのがちょっと癒されたよ。よかった、よかった。
......となるにはちょっと無理があるような。
うーん、どうなんだろう。
ユアン・マクレガーさんは可愛い。おじさん的に可愛いというのではなくておじさんであるにもかかわらずふとしたはずみでおじさんであることを完全に失念させるキラキラ感を炸裂させるので、例えば結構なゲス野郎を演じている時でもゲス感全然なくてこまっちゃう的なところがある。だからユアン・マクレガーさん演じるキャラクターが可愛さを武器に全てを乗り切ってしまえても、なんだか説得力があるというか、納得してできてしまうところはある。むしろ、ユアン・マクレガーさんが演じるキャラクターには基本的に悲惨なことになって欲しくない。悪人だろうがなって欲しくない。悪人でなければなおさらだ。
今回は大学でポエムを教えている教授。教え子に手を出しちゃって奥さんと仲がむちゃくちゃ悪化しているけれど、それをさっぴけば天使のよーにいい人だ。
ポエムを教えている教授ってだけですでに実生活では全然お役にたてなさそうで。風貌もなんだか体力もなければ腕力もなさそうな。 髪も長いし、世間知らずそうだし、見知らぬロシアンマフィアのおいたんに声かけられた時はそのままどこかに売り飛ばされたらどーするのかといらぬ心配をしてしまったくらい。
いきなり「一緒に酒をのもーぜ」と誘ってきた見るからにカタギさんではないおいたんから「クレジットカードの番号をおれが覚えられたら、この後おれにつきあう。外したら5000ユーロ(たぶん)支払う」という賭けに簡単にのっかり、あっさりクレジットカードを見せちゃうっていう。よしなさいよ旅先で。スキムだったらどうするの。
さらにいきなり誘われて連れて行かれたパーティで美人さんに接待され、ドラッグも吸っちゃって、いま誘惑されたら簡単に堕ちちゃうだろうみたいなことになって、あーあ、奥さんに怒られてもしらないぞーとか、ここでオイタしたら弱み握られて大変なことになりそーだよーとはらはら。ところが、マッチョで刺青だらけな怖そうなおっさんが女性に暴力を振るっているのを目撃したとたん、教授は豹変する。いきなりキレて女性を助けに刺青マッチョに殴りかかっていっちゃう!命知らずー!!!
その様をみて、最初に教授を誘ったロシアンマフィアのおいたんは自分の命運を教授にたくすことに決める。まぁ、他に選択肢がなかったという差し迫ったシチュエーションだったというのもある。
おっちゃんと教授の間にはなんだかんだといい具合の信頼と友情のようなものが築きあげられていく。のちに教授の奥さんがいうことだが、「彼も最初に声をかけた時、あなたがそこまで人に尽くす人って知らなかったんじゃない?」というくらい教授はおっちゃんに尽くす。おっちゃんの過去の悲劇と自分の家族だけは守り抜きたいという必死な思いに、グッときて知ったからにはもうほっとけないモードが起動し、教授の頑張り具合はちょっとただ事ではない。女の人が暴力を振るわれることに過敏に反応する教授にもしや過去に何かトラウマでもあるのかと思いもしたけれど、とくに描かれなかったので教授はモラリストということなのだろう。
教授の奥さんは法廷弁護士さんで、そもそも正義感の強い人であり、夫がちょいと浮世離れした感性の持ち主だとも知っているので、結局教授を手伝う。教え子に手を出したことでめちゃくちゃ怒っていたのに、教授が一生懸命おっちゃんとおっちゃんの家族を救おうとするその姿に「私はあなたのそういうところに惚れたんだった」と思い出したのか、教授への愛を取り戻す。
おっちゃんと教授、立場がまったくことなる二人が不思議な友情関係を築きあげ、最終的には教授の結婚生活も無事に修復される。
よかったじゃないか。
マフィアの内部紛争とか資金洗浄とか政府高官の汚職とか陰謀とか裏切りとかまぁそのあたりは教授の正直さと一途な勇敢さにみんながほだされていく過程をみせる舞台設定でしかないというか。
MI6のバリバリのスパイさんたちだって教授にはもう嘘つけないよ。あの瞳でじっと見つめられたら、もう誤魔化しも言い逃れもできません。
街のちんぴらだって教授にはかないません。「女性を殴ったお前は最低だ!」と教授のキラキラしたまっすぐな眼差しで怒られればぐうの音もでなくなります。
MI6のバリバリのスパイさんは手料理で教授を持てなそうとするも、あっさり断られる撃沈ぶり。 スパイさん、教授が書いた書評も読んで、褒めまくって、おtれだっていい奴なんだぜ?とアピールしようとしたのに、残念ながら教授は褒められなれていたのか、あっさり受け流されてしまいます。
でも教授が最後の最後まで誠実だったおかげで、けっきょく陰謀も潰せそうだよ。
教授万歳。誠実って大事。
うん。 "いくらなんでもそれはないやろー"とか重箱の隅をつっつくような真似は心の汚れた大人がやることだよね!
かわいい天使すぎる教授に悲しい顔をさせたくなくてみんなが全力でがんばったってそういうお話だよね。(は?)
私の好み度: ⭐️⭐️⭐️/5
🍅: 72%
原作では教授は20代。弁護士の奥さんは恋人という設定らしい。なーるほど。教授若かったのね。ちょっと腑に落ちた。百戦錬磨のおっちゃんらからしてみればまだまだ世間擦れしていないお子ちゃまだったのね....
いつか読んでみようかなぁ。