魂が時を越え、それぞれの時代で出会いと別れ葛藤、戦いを繰り返す。恋の物語であり、解放の物語でもある。
1849年、青年弁護士ユーイングは親から引き継いだ奴隷貿易の仕事で船で太平洋諸島へ。しかし、途中で体調を崩してしまう。寄生虫が原因と同行していた医師グースは診断。薬を処方されるがなかなか体調は回復しない。どんどんと体調が悪化していく中でユーイングはオトゥアという黒人の密航者に助けを請われる。オトゥアは腕利きの水夫だが捕縛され奴隷として売られそうになり逃げてきたのだ。
1931年、イギリス、スコットランドのエディンバラではフロビシャーという音楽で身を立てることを志す青年がユーイングの航海記を熱心に読んでいた。しかし本の半分は失われており、フロビシャーはケンブリッジ大学で恋人同士だったシックススミスに探して欲しいと手紙で頼む。
1973年のアメリカ、サンフランシスコでルイサ•レイは停電したエレベーターの中で偶然シックススミスと同乗。シックススミスはルイサの父を知っており意気投合。ルイサは原子力発電所の欠陥を告発するために報告書を渡したいとホテルで会う約束をするが、ルイサが扉を開ける寸前にシックススミスは殺し屋に殺される。シックススミスの遺品を回収したルイサ。しかし肝心の報告書がない。そこでシックススミスの研究所を訪れる。
2012年のイギリスでは出版編集者のカヴェンデッシュが新人作家の原稿"ルイサ・レイ事件"を読んでいた。しかし、トラブルに巻き込まれたカヴェンデッシュは富豪の兄デニーを頼るが兄は昔、カヴェンデッシュが自分の妻と通じていたことを恨みに思っており、カヴェンデッシュを完全看護の老人施設に閉じ込める。
2144年、ネオ・ソウルではクローン種のソンミ451が仲間のクローン種に誘われ、純血種が店に忘れたディバイスで純血種の古い映画"カヴェンデッシュの大冒険"を見る。ディバイスは故障しており、1シーンを繰り返すばかりだったが、ソンミにとって初めて目にする純血種の世界だった。しかし、純血種の文化に触れることはクローン種には禁忌であり、発覚すればソンミは処刑されてしまう。そんな政府を倒そうと戦いを挑む革命軍の将校チャンは、ソンミを外に連れ出す。2321年、高度文明は崩壊。ハワイ諸島の島で女神ソンミを信仰する部族が生き延びておりザックリーもその1人。ある時、過去に滅びた文化と技術を受け継ぐプレシエント族の女性メロニムが島に上陸。彼女は悪魔の山ともよばれるマウナ•ソルを目指しており、ザックリーにガイドを頼む。
6つの物語が同時に進行。主人公は彗星の形をした小さな痣をもつ者。それぞれの時代でさまざまな立場でトラブルに巻き込まれ、さまざまな障壁にはばまれ、愛する者と引き裂かれたり、命を狙われたりする。
複数の時代と物語を次々とスイッチしていく。一見無関係なようでいて、どこかでリンクしていく。それぞれの物語の主人公が邪悪な力や権力に押し潰されそうになりながら、懸命に活路を見出そうと苦闘した末、壁を乗り越えて束縛から解放されていく。その結末は時に悲劇なのだか、その苦しみは決して無為なものではなくひそやかに未来へ未来へと繋がっていく。
6つの物語をそれぞれ進行させながら、うまくリンクさせることで1つのダイナミックな物語とすることにしっかりと成功。このタイプのお話の中では極めてわかりやすく作られていたという印象。それぞれの物語が独立しても十分楽しめるクオリティなので、途中で迷子になることはない。これだけ辛くて苦い現実を描きながらも希望を持てる余韻へと終結できたのは圧巻。約3時間じっくり付き合う価値は十分ある作品と思う。
私の好み度: ⭐️⭐️⭐️⭐️/5
🍅: 67%